COLUMN コラム

相続税に対する将来的な税制改正の動き

 2020年12月10日令和3年度の税制改正大綱が公表されました。今年は新型コロナウィルスの感染拡大が社会経済へ甚大な悪影響を与えていることに考慮し、全体として当面の税負担増加に配慮した内容が多くなっているようです。

 来年度の改正には盛り込まれなかったものの将来的に相続税に影響がありそうな議論が始まっているようですので、今回はそのことに触れてみたいと思います。

贈与税の非課税措置が作られた背景

 税制改正について力を持っている政府税制調査会では「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築」と題し、相続税の課税方式について見直しを始めました。

 ご存じのとおり現在は年間110万円までの贈与は非課税枠の活用により贈与税が課税されません。この非課税枠を有効に活用し、暦年贈与により毎年コツコツと子または孫世代に資産を移転することで、結果として将来の相続税を節税することが可能になります。

 ただし、この生前に行った贈与は、相続前3年間のみ相続財産に加算して相続税を課税する仕組みになっています。ですから贈与税の非課税枠の活用は相続開始前ぎりぎりではなく、なるべく早期に開始したほうが有利ということになります。

 

 現在の日本社会は高齢化の進展に伴い、高齢世代に資産が偏っていると言われ、若年世代への資産移転が進みにくい状況になっています。

 高齢世代の保有する資産をより早いタイミングで若年世代に移転されることになれば、その有効活用を通じて経済が活性化するのではないかという期待から「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」「住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置」など様々な特例措置が作られてきました。

現在の相続税制の問題点

 ところがこういった早期の資産移転、特に富裕層による財産の分割贈与が結果として租税回避になっているのではないかという議論が出てきました。

 また現在の贈与税は相続税の累進課税制度を回避する目的で贈与を行うことを防止する観点から高い税率が設定されているため、非課税枠を超えた多額の贈与には抑制的に働いている面もあります。

 このように資産を移転する時期によって税負担が変わってくる=中立的ではない、という部分にメスを入れようとしているのが政府税調の議論だと思われます。

令和3年度税制改正での記載事項

 税制改正大綱では、

「諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている」

「今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方を見直すなど、格差の固定化の防止に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」

としています。

日本の相続税と諸外国の相続税

 そもそも相続税は、日露戦争の戦費調達を目的として明治38年に創設されたものが形を変えながら現在まで続いています。世界には相続税のない国もたくさんあります。

 有名なところでは中国、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、スウェーデンなど、また相続税があったとしてもスイスのように低税率の国やアメリカのように基礎控除が約10億円でほとんどの人が課税対象外となる国もあります。

将来に資産を残すために

 日本の相続税は基礎控除を下げ、最高税率は55%と世界でも最高水準です。

 日本国民でいる以上、相続税のことを意識しながら、かつ税制改正の動きも注視しながら、資産形成・税金対策を真剣に考え続けていく必要があるのではないでしょうか。